日本企業の少し未来の働き方
またまた間が開いてしまいましたが、先日のエントリーの続きです。
今名刺アプリで大人気のSansanが主催するイベント。
「日本企業の少し未来の働き方」と題して、色々な方面からこのテーマについての講演会を開催しています。
私が参加した日は、経営学の宇田川先生、楠木先生のお二人が登壇されました。
お二方ともとても良いお話でしたので、2回に分けてエントリーします。
そして宇田川先生のお話については、既にエントリーしております。
今回は楠木先生のお話です。
このイベントでは写真撮影OKとのことでしたので、今回も撮影した画像を、適度に使用していきたいと思います。
これはイノベーション?
さて、お話が始まって、まずはいきなり観客を巻き込んでの質問タイム。
「これはイノベーション?」
イノベーションだと思ったら親指を上に、そうでないと思ったら親指を下に。
とても分かりやすいジェスチャーです。
そして問われたのは…。
- iPhone6
- iPhoneⅩ
- テスラモデルS
- 京
- STAP細胞
- iPS細胞
などなど。
同じiPhoneでも、6では親指を上にする人が多かったのに、Ⅹでは一転して下へ。
STAP細胞はみんな親指を下にしたのに、iPS細胞ではこれまた一転して上へ。
ときどき冗談を交えつつ、会場に笑いをおこしつつ。
そしてすべての質問が終わり、答え合わせです。
衝撃的な言葉、「これらは全て、イノベーションではありません。」
これには会場もざわつきます。
イノベーションだったiPhoneは、やはりジョブズのいた4Sまで?
京は二番になったからイノベーションじゃないの?
イノベーションの定義とは
楠木建曰く
いろいろな憶測が頭の中を飛び交いましたが、聞けば納得。
「これらは技術の進歩の延長線上であって、イノベーションではない」
「イノベーションの定義は、進歩ではなく、変化である」
なるほどたしかに、初代iPhoneはこれまでの携帯電話の概念を打ち砕きましたが、それ以降のナンバリングは全て初代iPhoneからの進歩です。
京も、一位だったとしても「大進歩」。
テスラモデルSは「すごい進歩」で、STAP細胞は「勇み足」だそうです(笑)
iPS細胞は、実際の医療にはまだ活かされていない段階なので、「インベンション」発見だそうです。
ドラッカー、シュンペーター曰く
より正確な定義として、ドラッカーとシュンペーターの定義を挙げていました。
ドラッカー曰く、イノベーションは技術そのものではなく、「社会を変える」ことであり、尚且つ商業化されたものであるとのこと。
イノベーション=インベンション(発見)+市場化
つまり、iPS細胞も医療に活かされて市場を持ったところで、イノベーションと呼べるようになるのです。
シュンペーターの定義では、イノベーション=生産要素(資源)の新結合であり、本質は非連続性。
例として、馬車を何台連ねても蒸気機関車にはならないということが挙げられます。
ヘンリー・フォード曰く
顧客のニーズだけを聞いていたのなら、フォードは自動車を作ることはなく、「より速い馬車」を生産していただろう。
ヘンリー・フォードも、このようなことを言っています。
馬車である限り、どれだけ速くなっても、馬車は馬車です。
移動手段が馬車から車になったことが、イノベーションなのです。
イノベーションの本質は、ニーズ志向でもあるということでしょうか。
思わぬところでイノベーション
続いて、ハイラム・ムーアという人が刈り取り機を発明し、特許を取得したときの話。
このときは、発明、特許がイノベーションだったのではなく、クレジット、分割払いという方法で販売したことがイノベーションでした。
現金一括払いしかなかったころは、どれだけよい発明であっても、買うことができる資力を持った人は限られていました。
そこにこの割賦という支払方法が生み出されたことで、こういった高価なものに中流でも手が出せるようになり、消費社会が加速していきました。
イノベーションは技術の話ではない
これらの例はいずれも、技術の向上が伴っているように見えます。
ですが、イノベーションは必ずしも技術革新ではありません。
その好例として、ウォークマンがあります。
ウォークマン以前は、音楽好きと言えば大きなスピーカー、真空管アンプ等、音質を追及していたはずです。
それに対してウォークマンのイヤホンはどうでしょう。
音質という観点からすると、技術的には退化といえるでしょう。
でも、「外に持ち運べる音楽」という新しい市場を開拓しました。
イノベーションは、技術革新ではなく、路線転換なのです。
ウォークマンは、大音量高音質で楽しむものから、いつでもどこでも楽しめるものに路線転換した例です。
カテゴリー・イノベーション
このウォークマンがすごかったのは、カテゴリのイノベーションだったこと。
一気に市場を席巻し、固有名詞であったウォークマンを、一般名詞にしてしまいました。
本来パナソニックのウォークマンというものは存在しないし、パナソニックも自社製品をウォークマンとは言うはずがありません。
ですが、消費者はメーカー関係なく、ウォークマンと呼んでいたはずです。
他のメーカーの製品が自社製品と同じ名前で呼ばれるということは、ソニーにとってはひとつのカテゴリを征服したようなものです。
イノベーションというにふさわしいインパクトのある例ですね。
進歩とイノベーションの違い
また、楠木先生は進歩とイノベーションの違いについても、シンプルに説明してくれました。
進歩は、「できるかできないか」の勝負。
イノベーションは、「思いつくかつかないか」の勝負。
進歩は努力して追い抜いて、マネして追い付いて、さらに努力して一歩進む。
絶えず競争することになります。
レッドオーシャンそのものですね…。
イノベーションを起こそうとがんばればがんばるほど、しっかりとふるいにかけられた進歩的なアイデアが勝ち残っていく。
皮肉なものです…。
まとめ的なもの。
イノベーションは頑張ってひねり出すものではなくて、非連続的に、ひらめくようなもの。
連続性がないということは、ある意味企業にとっては死活問題です。
ゴーイングコンサーンの為に技術を承継する。
そのために標準化してマニュアル化していくのが普通の企業体です。
イノベーションは、続いていないこと、標準化できないことです。
こんなもの、みんなで追い求めてはいけませんね(笑)
とはいっても、イノベーションをおこせれば、レッドオーシャンから抜け出して、一人ブルーオーシャンで悠々と泳ぎまわることができます。
連続性の企業体の中でも、組織である以上数名は変人がいるものです(失礼)
そういった人たちが出してきた一見突拍子もないように思えるアイデアを、しっかりと受け止められることが、イノベーションに繋がるのでしょうね。
そしてそういった土壌こそ、宇田川先生が言っていたような「イノベーションを興す組織作り」によって醸成されるのでしょう。
「イノベーション」はバズワード。
様々な書籍、雑誌、講演などの中で、少しづつ異なった使われ方がしています。
中小企業診断士のテキストにも、もちろん出てくるキーワードです。
ですが、今回伺ったお二方の定義する「イノベーション」は、いままでで最もしっくりくるものでした。
イノベーションをおこすことの競争のようなものがあって、口々にイノベーションイノベーションと言うけれど、何も起きていない。
いや、イノベーションなんて、そんな頻繁におこるものではないよと、肩の力を抜いていると、ぽろりと頭のどこかからこぼれ落ちてくるものなのかもしれませんね。